気管切開分離術
さいたま市立病院小児科医、一色先生が先日の受診時に(ぜひ決断できないでいるご家族に参考になるようなことを書いてほしい)とおっしゃって下さったので、
『気管切開の決断にいたるまでの苦悩と、結論としては、気管切開をして“めちゃくちゃ”良かったよ、手術するまでに悩みぬいた時間(実に“1年間”でした)も大切だったと思う』
ということ、を書いてみたいと思います。
ちなみに、ゆりちゃんは県立小児医療センターや療育園や学校などあちこち行っているのですが、肺炎などの際の搬送先は市立病院になっています
(小児医療センターは3次救急。病院には階層があって、
一次:クリニック<二次:市立<三次:医療センター、です。
友梨の場合は、クリニックを往診医、に読み替え。
往診医が在宅で見れない状態のときに二次救急に搬送、そこでお手上げの時に三次へ搬送、内容によっては、直接三次、のような感じです。)
市立病院の先生方はチーム、横の連携が素晴らしく、ゆりちゃんの全身状態や罹っている科の過不足がないか、定期的に受診できているか、などの全体的に横断的にみてくださっていて、地域に根差した生活がうまくいくように、アドバイスしてくださっています。
最後に尊敬する宮本二郎先生に相談した際にいただいた、超ロングな返信も、許可していただいたので、つけさせていただきます。
強くお勧めしてくれた市立病院の小松先生はじめ相談に乗ってくださった諸先生方、決断に至るまでの期間、辛抱強く支えてくださり、ありがとうございました。
気管切開が必要な子だと思いながらも、家族で決断できるまで待ってくださった先生方、ありがとうございました。
ゆりちゃんの力を信じて、強く反対してくださった方々、ありがとうございました。
まだ心の準備ができていなかった時期に、どのように工夫をして生きていこうか一生懸命考えてくださったこと忘れません。
どの方との気管切開にまつわるどの対話も、決して忘れることのできない大切な対話でした。
気管切開手術をする、に心が決まってきたころ
手術をする、に心が決まってきたころ、手術をするならば、いつ、という質問の答えを探していたころ、私は、先生たちにこのような質問の仕方をするようになりました。
今手術をするのは、早すぎるとおもいますか?
もうすこし待てるかもね、という意見の人がいるうちは待っていました。
そして、時間と共に、全然早すぎないよ、と言う人が増えてきました。
手術をするのは変だよ、早すぎるよ、いらない手術をしちゃったね、という医者は、もう一人もいないです、って言われるようになったときに、手術を決断しました。
気管切開について、学校医の先生がこう言いました。
あのね、おかあさん、待ちすぎないでね、待ちすぎないで、手術してあげてね、決めてあげてね
って言いました。
術後の回復、術後のデバイスのありなし、その後のQOLに影響するからです。
ゆりちゃんのために、です。失うものがあります。リスクもゼロではありません。涙が出てきて、そして、はい、ゆりちゃんのためですよね、と晴れやかに言いました。
No turning back.後戻りもうしない。
もともと言われていたけれども。
手術のこと、自分の父親に伝えるのに非常に躊躇しました。
延命ではないか、と怒られるかなと思ったのです。
でも母から話を聞いた父からは、何も言われませんでした。反対されませんでした。
自分の口からは、ついに手術をします、と言うことすらできませんでした。術日に頑張ってね、という言葉のやり取りはしました。
父は、このような決断をしなくてはいけない娘(私)を穏やかに見ていてくれました。
ゆりちゃんが、今まで苦しかったんだ、ということが、本当にわかったのは、手術がすっかり済んで、気管切開のケアにもすっかり慣れてからでした。退院して迎えた週末にすぐに気が付きました。こんなに楽な呼吸で眠っているゆりちゃんに会えてよかったな、と。
気管切開手術をするなら早いほうがいい。
そんなこと言われても、一年前はわからなかった。時間がかかったけれど、なんとか遅すぎずの決断ができたと思う。
引き延ばせるものなら引き延ばしたいというわがままも経験したので、決断しかねている人がいたら、寝姿勢を毎晩奮闘しながら、葛藤している人がいたら、気軽に連絡をください。
ですが!私からのアドバイスはありません。
それぞれが考えることだから。でも、なんとかケアにも慣れて楽に過ごしている家族の様子、本人がなんといってもすこぶる元気に過ごしている姿、はお伝えできます。
出席率のいい学校参加、入院なしの冬、出番がすっかり減って、しまいこまれた入院セット、心配し過ぎずで沖縄への旅行を計画中であること、などもお伝えできます。
気管切開手術決断の最終的な決め手
それで、決断の最終的な決め手は、訪問看護ステーションの看護師さんたちです。
とくに管理者の石井さんが、愛情でしたよね、決められない私をドーンと崖から落としてくれました、行ってみようと。
あの、背中を押してくれたモーメントを忘れないです。
たくさんの人との積み重ねてきた対話があったからこそでもありますが、あのときの一押しが、まぁすごくよく効きました。
崖の絶壁で止まっている私のあと一センチを押してくれました。そして、知らない世界へGO、飛びました。
石井さんは、小児病棟の外科で活躍してきた褥瘡ケアの認定看護師さんです、ワックさんというやつですね。
なので、術後のケアに関する心配事が全部石井さんがいるから頼ることができるから大丈夫だと思えたので、決断できたのも大きいです。
気管切開に関する考察
Are they jumping the gun? 医療者が急いでないか?進歩的すぎないか。
それとも、Am I being too much mama bear?
私が“お母さん熊さん”保守的になりすぎなのかな?(他人からの干渉・意見にぴりぴり、守りモード、日本語でいうと、産後の‘ガルガル期’←母になったホルモンの関係でガルガルしてしまう時期の言い方、が近いニュアンスかなと思います。)
Mama bearという表現かわいいですよね。
気管切開の提案をされる気持ち
気管切開の提案をされる、というのはどういう気持ちがするものだか、想像できますか?
気管切開の提案をされる未来、というのは、the worst nightmare私にとっては、超えたくないライン、想像しうる最低最悪の悪夢、でした。
とにかく、それだけは決断できない、と思っていました。
ザ・延命、ザ・医療的ケア児、喉に穴が開いているというのは、衝撃的でした。大変申し訳ないけど私はこれに関しては、乗り越えられそうもない、と思っていました。
気管切開を提案された当時
気管切開を提案された当時、Mama bear な面が全面に出てきた私は、我が子の喉をかっ割かれるなんて耐えられない、と、一時は、病院の先生たちとのカンファレンスから逃げ回りたい、先生たちに会ってしまうと、作ろう作ろう言われる気がして、怖すぎるので、いっそ会いたくない!そんなお母さん熊でした。
(一度は納得して予約した手術を、やっぱりできないです、と、キャンセルする、というのを、二度しています。そしてこれは、完全に大丈夫です、絶対できない気持ちのときは、きっとまだなのです。そういうときは、母の直感を信じて、延期しましょう。←先生ごめん(笑)
一年かかったけど手術に至って、市立病院の先生方が当初initial approach言っていた懸念の数々が今やっと理解できます。)
衝撃的なことなので、完全に疑心暗鬼になった私は、医療者が急ぎすぎているのではないか、医者というものは手術したいものなのだろうか、実績がほしいのだろうか、まさかの練習じゃないですよね、今月の手術枠を埋めたいのだろうか、すぐ切りたがる・・・
そんな囁きが聞こえてくるのです。人聞きの悪い言葉ばかりですが、実際に私の頭の中を駆け巡った言葉たちです。
そして、そんな風に周りから言われると、もう一人の自分が反論します。その声を遮るように、私が言うのです。
そんなんじゃないんだよ、みんな真剣にゆりちゃんの健康について考えているんだ、ゆりちゃんは、こんなにこんなにこんなにこんなに悪いから、毎晩苦しくて大変なんだ、すぐに熱がでちゃうしね、気管切開が必要な子なんだよ、と。
そして、あきれ返るのです。やりたいんか!やりたくないんか!決断できない自分に。
心配事は複数ありました。
気管切開手術をする不安
- 不安1.吸引への不安!
手術をした場合吸引がどのくらい大変になるかが心配。なんとなく、気切の子は吸引が頻回な子が多い印象が強いけれど、あれは気切の子だったのかしら、気管切開分離術だと頻回ではないのかしら。今と吸引の頻度が変わらないなら、なんで手術するんだろう(←や、それは肺炎にならないようにでしょうが!) - 不安2.コロナ医療逼迫中に手術することへの不安!
手術に進んだとして、コロナのクラスターが発生したとすると、心理的ストレスが大きい。場合によっては、最悪のシナリオ、そのまま会えなくなるという可能性があるという事実は看過できない(←当時は、まだまだコロナ大変でした)
気管切開手術をしない不安
- 不安1.
手術を先延ばしにしたことで、いざ手術をしなければいけない緊急事態がおきたときにコロナによるひっ迫のせいで、手術できなければ、それは最悪だ。(数か月、数年後のコロナの状況が収束に向かうかどうかは、当時不明だった)今後天文学的にコロナ罹患者が増えるのであれば、今すぐやるべきか。 - 不安2.
手術をしなかった場合、長期的にどのくらい肺が傷んでしまうのか心配、かなり待ってから手術をすることが悪いことだということも頭ではわかる - 不安3.
手術をしないまま、ある時コロナに罹ったら助からないんじゃないか。手術済だと挿管しなくてはいけないような場面でも確保できているから挿管しなくていいからメリットが大きいでしょうか。(ちなみに、翌春にコロナ罹患し、無事に回復していて、罹患済になったことで、もう罹ったし、とコロナとのタイミングなどの兼ね合いへの不安が解消し、手術に前向きにそのあと進んでいます)
手術をしない決断をした当時の気持ち
ゆりちゃんの気持ちを代弁可能なのは自分たちなので責任を感じている。本人にとって必要な手術ならば、楽になるならば、決して躊躇すべきではないと思う。
いつかやる覚悟はできた。いつになく安定している体調のゆりちゃんを見ると、今の段階では決断まではできなかった。
- 今すぐじゃない。
- ひっぱりたい。
- 引き続き検討を続けて、良いタイミングを待つ。
- 重症度(医療的ケア)の度合いを自ら段階を引き上げることへの抵抗がある。
- 見た目への抵抗がある。
- 見ていて辛い気持ちを払拭できるのだろうか。
- 声が聞こえないのは辛い。
- 作ってしまえば元に戻れない。
毎日必死で体調管理に努めたい。
*当時寝入ったらエアウェイ挿入、詰まったら抜き差し、etc.エアウェイを使いながら、舌根沈下時等、がんばっていました。
本人の治癒力、体力、案外調子がよく過ごせていること、声がきこえなくなるのは惜しいと様々な理由をさがしては、手術しない決断をサポートしていました。
そして、主にリハビリ・在宅での生活目線でかかわってくださっている先生方の声を支えに、しないで、工夫をしよう、と熱心に肺痰、姿勢の工夫に励んでいました。
(今回書ききれなかった部分になってくるので、また今度、PT目線で考える気管切開について、手術しない方向で考える気管切開について書きます。)
気管切開手術の提案
RSウイルスに感染し、市立病院に2週間入院、早期に咽頭気管分離術をするほうが良いと以下の理由で強く勧められました。2021年の夏のことです。
- (耳鼻科)アデノイドが肥大していること。舌は巨大舌ではないが筋力が低下していること。胃ろうでの栄養のため、舌を使う機会なく、今後も筋力の回復の見込みない、Airwayを使用していることは評価できる、(乳児期にあったが)咽頭軟化は今はない、嚥下機能の低下によるたれこみがあると思われる、気管回りにたくさん唾液が見られた
- (ST)口から摂取した水1㎜がどの程度気道に垂れ込むかテストした結果、100%であった。夜間数回にわたり確認したが、いずれも99-100%たれこんでいるという結果がかえってきた。また、SPO2が86%まで下がっているに咳嗽(がいそう)反射が見られなかった。
- 次にヒトメタやインフルなどの分泌物の増える感染症になった場合、助けてあげられるかわからない。重篤になれば、低酸素血症などのリスクがある。QOLの観点からも入院なく過ごせるようにサポートしたい。健康寿命の観点から手術をすすめる。
小松先生と一色先生に、迷いはなく、小児科チーム全体の総意である旨を聞きました。
そして、その時は、じゃあ作ります、ゆりちゃんといきていきたいから、やります、と苦しみながら言いました
(そして、やっぱりまだできないです、と取り消しましたが………笑、結論からいうと、このときの先生たちの見立ての通りで、このときの提案の言葉をかみしめている、すっかり術後な今日この頃です。)
気管切開に関して先生方のお話し
ヒアリング1、県立小児の神経科の主治医小一原先生
適用があるかないかといわれると、適用はあります。
複合的要因を抱えています。時期については今がいいかときかれても内視鏡検査などの結果を見ていないのでなんともいえない。
緊急の状態ではないものの、かといって、やる必要がない、やらないほうがいいよとも言えない、大きい決断なのでご家族の考えも尊重する。
リスク回避の観点からすると、安心ではある、やっておくとリスクがかなり減る、入院を要するトラブルが減ることは確かだと思う。
状況からするとやったほうが本人は楽になる。
今回のRSはなんとかなったけれど、他の誤嚥性肺炎によって悪い転帰(命取りになること、たとえば呼吸停止)をとることもある。
エアウェイなしではだめな状態、気道の問題、努力呼吸様になってはステロイド使用していること、など、ベースの状況(重心さんの慢性気管支炎)は把握している。
ただ、デメリットもある、声、吸引、肉芽等のスキントラブルなど。
また、倫理的な観点、苦しそうな時に在宅で人工呼吸器を導入できる、長く生きることができる、ご家族としてお求めかどうか。
延命についてどう考えるか。
その子の自然な生命力をそのままにしたいのか。
安楽に過ごせるようサポートしていいたいのか。
少しでも長く、がご希望か。(倫理面についてのお話、があり大変ありがたかったです。)
引用:県立小児の神経科の主治医小一原先生との診察時の会話より
ヒアリング2,療育園のゆりちゃんを長くみてきた小児科医の早川先生
結論から言うと強く勧めます。
コントロールが難しい子たちは、誤嚥している子、痙攣発作が頻回な子たちです。
ゆりちゃんは両方当てはまります。コントロール
難しい子たちは、最終的には気管切開分離術だったり別の術式をやっていて、呼吸器になっています。
肺のことを考えると、勧められた今のタイミングで悪くなる前にやっていただくのがよい。何年かしてからよりも今がよい。
体力がある時期、体重が増えてきていて栄養がいい時期(傷のくっつきの速さに影響します)、冬の感染症や乾燥が気になる時期よりも前または後の時期を勧める。健康に寄与する。
ケアは、増えるが、ゆりちゃんのママならできる(と太鼓判?励ましていただき嬉しかったです)。
口の唾液はごっくんしなければ口にのこるため吸う必要がある。
ただ気道への道はないから誤嚥しない。唾液のたれこみがなくても、気道からの分泌物は、それはそれででる(これのイメージがいまいちわいていなかったです、今はわかる)。それはそれで吸引をする、ことになります。
肺炎、手術をしても、肺炎になることは、ある。ばい菌が入ることはあるので。
手術のリスクはある。動脈と気管が近いので、低頻度ながら大きな合併症になるリスクはある、位置関係やトラブルについては、外科から聞くこと。(ゆりはトラブルなく過ごせています、友人の中には、動脈をつんつんしてしまっている、と位置関係だったりのトラブルで再度手術をした人を2人知っています。)
市立病院での術に関して
地域の病院での術は、成人移行後を考えてもお勧めできる。どこで、というよりも、コロナを気にし過ぎず最短で体調を次に崩す前に、手術をするのはいかがか。
(結果的に一年後に、小児医療センターでの術をしました。胃ろうの手術でもそちらにおせわになっているので、統一?しました。マイナーなのですが、手術室が子供向けでスゴク可愛いのです)
食事の楽しみ
術後は理論的には食事ができるようになる。(本人によるが)味見くらいはできるようになる。(ぜこつかず食べれるようになりました)
気道の乾燥が課題
気道の乾燥については、夜間呼吸器をつける、日中外すなどの方法が考えられる。加湿の観点から人口鼻はつけるのを推奨。(人口鼻つけて問題なく過ごしています。フリー、という方法があるのですが、それについては、今後先輩ママに聞きながら長期目線で検討事項、興味はあるが、いずれでいいかと思っています、安全性も重視しています)
学校生活
吸引がしやすくなる(これの意味も術後によくわかりました。吸いきれるし、口鼻に比べるとその子その子に合う塩梅、みたいなのがないので、誰でも吸いやすいので、頼みやすいです)。
引用:小児科医の早川先生との診察時の会話より
ヒアリング3,小児在宅医宮本二郎先生からいただいた大切な言葉
では、ここからは、ヒアリング3.正月も来てくれた、我が家の緊急事態をたくさん見てきた、小児在宅医宮本二郎先生からいただいた大切な言葉を共有します。
おはようございます!
お返事遅くなりました。
お読みになって、ぜひまた返信ください。一度のメールで全部伝えられると思わないので。
今回僕は最近のゆりちゃんの状況を充分に把握しないで書いていますことをご容赦ください。でも、おそらく把握してても伝えたいことは大きく変わらないと思います。
- 気管切開するメリットは何なのか、デメリットは何なのか。
- それを総合的に考えて、ゆりちゃんにはやった方がいいのか、どうなのか?
- もし、気管切開をするとしたら、いつどういう状況なのか?
を考えていきたいと思っています。
まず、気管切開をする状況ですが、以下の2点がゆりちゃんでは考えられるかと思います。
- 人工呼吸器を使うために、気管挿管という口からチューブが入れる場合に、何週間もそれを続けるのは、本人の負担が大きく気管切開をする方が本人にリスクもなく、楽に過ごせます。ただし、これはあくまで、人工呼吸器を使うような状況(重症肺炎など)になり、それが長引いた場合。
- 痰詰まりから窒息を起こす可能性が高い場合。これはゆりちゃんで考えないといけない状況かもしれません。病院の先生は多分これを危惧しているかもしれません。
気管切開をするにしても、「やるべきかやらないべきか」の視点と、もう一歩踏み込んだ「いつやるのか?」という視点があります。
いつやるのか?という視点について、もう少し言及するとしたら、早すぎず遅すぎずぴったり適切なタイミングで治療をするということは困難です。
(当たり前といえば当たり前ではありますが)医療行為というものは不確実であるという事実は改めて確認したいところです。このため、どちらかに偏りをつけた選択を医者もする傾向があります。その時にどちらを選択するかと言うと、(意識的にも無意識的にも)より安全に偏りたいと考えてしまいがちなが、ありがちな考えです。
例えば、ゆりちゃんの場合だと、痰詰まりで窒息したら取り返しがつかないので、早めにやっておこう、と病院の先生は考えるかもしれません。
それは、ゆりちゃんには本心から気管切開させた方がいいと思っていて、決して変なこと言っているとも僕は思いません。
しかし、気管切開と言うのは初めに書きましたが、デメリットもあります。
唾液の垂れ込み(単純気管切開の場合)は多くなります。
唾液の垂れ込みが減るというイメージなのですが、単純気管切開だと唾液の垂れ込みは実は増えます。
また、喉頭分離術の場合だと、唾液の垂れ込みはなくなりますが、今度は逆に気道の乾燥しすぎで、ひどいと気管からの出血などもあります。
その他にも、「気管腕頭動脈ろう」という気管切開ならではの稀ではありますが致死的合併症、予定外のカニューレ事故抜去など、気管切開したからすべて解決!よいことばっかり!では決してありません。
さらにFBでも書かれていましたが、喉頭分離では声が出なくなります。
もちろん声が出なくても、その子がより安楽に過ごせるのなら選択肢の一つにはなっても良いと思います。
そのうえで、ゆりちゃんに当てはめると、、、
ゆりちゃんは、咳で排痰がそれなりにできる子だと思うので、急に痰詰まりする可能性はそれほど高くないのでは?と思っています。
(余談ですが、排痰については、リハや日々の姿勢や吸引ツールなども引き続き工夫していくのはとても大事だと思います。これを置き去りにして、気管切開するかどうかは極端な話になりがちと思い、当たり前のことなのでカッコで記載。)
あとは痰が多い時に、痰または唾液の吸引を家族が行うにあたり現実的なものなのか、も考慮されると思います。
病院であれば1時間に数回の吸引は可能でも、家で家族が行うとなったら数日は大丈夫でも、月単位・年単位では難しい可能性があります。
ゆりちゃんの家は普通の家庭よりもだいぶ頑張っていると思います。しかし、ゆりちゃんのために頑張る!と言っても、しゅん君もいるし、他の生活も実際ある。
ゆりちゃんのことで疲れ切ってしまうと、そのほかの生活に支障が出て、それがゆりちゃんへのケアに影響してしまうこともあります。
それをレスパイトなどでリセットするのも一つだと思います。
また、上手く夫婦が協力してお互いにリセットできれば素晴らしいと思います。
もし、そのようにして痰吸引などをご家族がなんとかできている場合なら、ゆりちゃんがどのような生活が一番安寧であるか考えたいです。これが一番大事なことです。
ゆりちゃんが、何が安寧なのか、を考えるのはとても難しいですよね。
でも僕から言えることは、家族でいることはやはりとても大きな安心感だとまず思います。また、お母さんも、今は元気そうと教えてくれており、きっと今は比較的安寧の状態だと想像しました。
だとしたら、もしかしたら気管切開をしてより安寧になるかもしれないけど、より大変になる可能性もある。
ご家族も(そしてゆりちゃんも)、今の生活はゆりちゃんにとって心地よいものと考えているならば、気管切開は今すぐは選択しなくてもいいかなと僕は思います。
ただし、その代わり、可能性は低いのですが、万が一に痰詰まりで窒息しても(そうならないように吸引とかもしてた上でなら)、それを選択したのならもう後悔しない、という覚悟は必要です。
ゆりちゃんが今安楽に過ごすということを優先して考えた時に、それは家族のエゴでは決してなく、ゆりちゃん自身がその方がより安寧であると、ゆりちゃんのご両親が考えて決めたことなので、ゆりちゃんにとっても後悔はきっとないと思います。
医療の不確実性は時に残酷ですが、選択するときには決めた!と覚悟するのは大切です。もちろん一度決めても、引き返す猶予があるうちは選択しなおすこともできます。
確か、ゆりちゃんファミリーがハワイに行く時に伝えたと思います。
もし、ゆりちゃんが悪くなったとしても、行くと決めたのだから後悔はしないでね、と。
なんとなくダラダラ書いてしまいましたが、僕なら、ゆりちゃんが気管切開する状況でイメージできるのは、
- 重症肺炎などで気管挿管という口からチューブを入れた人工呼吸器を使用し、それが長期間になった場合。
- 自分で咳が上手く出来なくなった場合。
の二つを思い浮かべました。
実際、少しずつ誤嚥はしているとも思います。
このため、気管切開+喉頭分離というのはいつか選択肢にはなるかもしません。
しかし、やるとしてもデメリットが大きいこと、痰が本当に詰まってしまう可能性は大きくないのかな、と考えると、総合的には今すぐではないのかな、と僕は思っています。
しかし、本当に悩ましいと思います。それは医学と言うものが不確実なものだから。
ゆりちゃんにとって気管切開が良いのかどうかはやってみないと本当のところは分からないことにあると思います。
きっといろんな人が、それぞれゆりちゃんにとって何が良いのかを考えてくれていると思います。
僕も僕なりに考えてみましたが、とんちんかんなことを言っているかもしれません。
僕と意見の違う医師もいると思います。
でも、みんな自分なりに、ゆりちゃんのことを考えてよいかれと思う意見を言っていると思います。
しかし、みんなは(僕も含めて)ゆりちゃんのある一面しか見ていないと思います。
やはり、ゆりちゃんのより多くの面を知っているのはご家族だし、ゆりちゃんのケアを実際に家でするのもご家族。
だからご家族が最終判断しなくれはならない。
でもそれは非常に辛いこと。だからご家族だけで判断するのではなく、こうやってみんなの意見を聞いて、そしてさらにお母さんが突っ込んできてほしいです。
そして最終的に決めた意見は、ご両親で最終的に決めたとしても、それはみんなで決めたことだと思います。そうすると決めた時の覚悟もしやすいのかなと思いました。
長々すみません。
分かりにくいところもたくさんあるかもしれません。
疑問などあればまたいつでも教えてほしいですし、そんなことではなくこんなことが聞きたかったんだ!というのがあれば遠慮なく突っ込んできてほしいです。
ゆりちゃんにとって良い選択ができますように願っていますし、そのサポートをしたいと思っています。
では、また連絡お待ちしております!
宮本二郎 拝
引用:小児在宅医宮本二郎先生とのメールにて
終わりに
気管切開について、まだ描ききれない部分があるので(こんだけ書いたけどまだある)またいつか続きを書きます、たぶん。
これは延命の始まりだよね、という表現を見ました。そう、胃ろうも、気管切開も、延命かもしれない。
でも、子供たちについてのコンテクストにおいては、そうじゃないかかもしれない。こうゆう生き方があるかもしれない。
もっと一緒に生きていきたいという決断をすることができる恵まれた国に生まれたこと、分離術という術式が選択できる時代、医療の進歩、安心して娘を育てることができている環境に感謝しています。
ではでは。
NHK:人工呼吸器 どんな種類がある?どんなときに使う?
https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_1564.html