生活×日常風景
今回の記事で補足・加筆した内容を()書きで示すこととします。
(発表後に、どこかに見れるように、然るべき場所への掲載を、とても良かった、という声をかけていただき、大変励まされました。当日聞いてくださった方々、ありがとうございました。)
越谷特別支援学校小学二年生になる娘友梨は、いわゆる重症心身障害児・医療的ケア児でして、難治性てんかんを主訴とする神経希少難病の一つ、アイカルディ症候群という疾患を患っています。
胃ろうから栄養をとっていて、気管切開分離をしています。てんかん発作は日に2-3回程度、吸引は30分に一回程度、分離手術後(これは1年前になります)は、本人なりの安定した生活をすることができています。
ただし、そんな娘と旅行、まして海外旅行というのは、非常にハードルが高いわけですけれども、この夏、実は2回目の海外患者会参加を叶えることができました。
いとも簡単に旅行をやってのけたわけでは全くなくてですね、旅行準備は、非常に苦労ばかりで(特に酸素の手配)、行くのをやめようかなと思うほど気が遠くなる作業でした。
それでも、同疾患児家族に会いたい、という思いが強く、(難病児家族にとって、仲間と一堂に集える場所、娘が主役の4日間というのはものすごく価値があって魅力的なのです)あらゆる障壁を乗り越えて旅行をしてきました。
今回は、病児の親になったときに、もう2度と飛行機移動を伴う旅行なんてできないと一度は絶望したご家族が、在宅のケアに慣れて、旅行を検討している、そういった場合に、医療関係者の方々の強力なサポート体制、―サポート体制とは広義では、つまり、どんな準備が必要なのかのイメージが詳細にわいている状態、と考えています―、があるとないとでは、大違いなので、少しでもお役に立てていただければという一心で、知見を共有しにまいりました。
(私の問題意識は、飛行機に乗りたい重症心身障害児家族をサポートできるだけのノウハウや知見が旅行経験者家族から十分に吸い上げられていない、集積されていないために、旅行計画を遂行できるかどうかは個々人の情報収集能力や運に委ねられてしまっている気がする、というところにあります。)
(我が家は、赤羽在宅の森先生、宮本先生をはじめとする方々に過去の旅行で大変お世話になりながらこれまで旅行できています。医療携行用品に関する書類の作成(一筆書く)をドクターは頼まれることが多いと思いますが、それだけが旅行準備では当然ありません。
多岐にわたる調整・手配の作業があるよね、ということを概観できるような内容を目指してスライドを作成し、本記事では、発表時使用した全スライドを添付しました。
これらの事前準備に加えて、旅行先で代替品を調達することが難しい医薬品を含むが故に“プレッシャーのはんぱない”医療的ケア児旅行の荷造り(!)という壮大な事前準備もあるのですが、そちらについては別記事をご覧ください。)
まず、①飛行機での移動そのものについて、つづいて②アイカルディ症候群患者家族会の様子について、お話させていただきます。よろしくお願いいたします。
海外患者家族会に参加するための道のりは長いです。本日はこの表のうち、5.航空会社の福祉デスクとのやりとり、6.主治医へ各種書類依頼、を見ていきます。
まず、医療機器は全申告です。
申告に関するキーポイントですが、商品名は無論、型番、バッテリーパックの詳細まで事前に申告するということがポイントかな、と思います。バギーをどの時点で預けるか、預けた後の動きなど、事前に航空会社側と確認を済ませておきます。ただ、毎度なのですけど、当日は十分に早く行くことも事前準備と同じくらい大事です。入念な確認作業があるので。(難局を乗り切った話(再三確認してきたはずの、酸素の最大流量とバッテリー稼働時間の当日の再再度の確認が入ったこともあります)、はいくつもあります。もっと聞きたい方いらしたらお知らせください。)
離着陸時及び飛行中の姿勢はどうしたのか、座席をどうとるのが得策か、というのが、実に多くの人の疑問だと思います。
私もこの先も(娘の体格が大きくなっていくほどに)悩み続けると思います。今回に関しては、飛行機には実は最後まで売らない席(但し超満員にならない限り)、というのがあって、そこを抑えていただきました(“最後まで売らない席“とされる席が売れなければ、その席も使わせてもらえる可能性があるよ、というエリアがあります)。
結果としては、往路は超満員のため、その席は売れていたものの、復路では、母子2人で3席、お隣の最後まで売れなかった1席をプラスで使わせていただきました。
(また、多くの人にとって、トイレ事情も大変興味が強いと思います。これに関しても、話を聞きたい方がいましたらお知らせください。今回使用した座席につけるFAA認可の座席に通すタイプのベルトなどを含む、旅行に関連して利用したレンタル品や購入品については、こちらです。)
用意する書類はたくさんあります。患児のニーズが叶うような医療械器の手配を主治医と相談しながら進めつつ、航空会社側の要請にも叶う書類を作成していく、双方向の努力が大切だと思っています。
実際に持って行った書類になります。
子連れ旅行の食事は工夫あるのみです。過去の旅行では、ミルトン消毒も、ケトン食の油分まみれの洗い物も移動しながらやってきました。
なお、飛行機内で、滴下で栄養剤を落としたい人、高さが必要な人は、注入ワイヤーを事前申請すると借りることができます。
飛行機内は狭くて揺れるので、栄養剤をこぼしてしまう、というリスクがあります。なので、食事回数よりも多い回数分の栄養剤、薬をプラスで持つのは当然のこと、普段は液剤を利用していても、半固形タイプの栄養剤で代替できないか、など主治医に仰いでみるのも一案だと思っています。
基本的に何もかも時間がかかる、というのは想像がつくと思いますが、飛行機に乗るときは、基本的に一番最初に通されます。
降りるときは、一番最後です。最後に出ることのメリットとしては機長さんに会えることかもしれません。機長さんや客室乗務員の方々に写真に快く応じてもらった経験があります。
ここからは、アイカルディの家族会についてです。患者同士の交流は、80年代には始まっていた様子です。
文通、ニュースレターの発刊から始まり、インターネットの普及と共にメーリングリスト、フェイスブックグループ、と形を変化させてきました。
初期のレジェンドファミリーたちが、今も中心的な役割を担っていらっしゃいて、新しいファミリーを力強く支えています。
コロナの時は開催が見送られましたが、2年に1回、隔年で米国内で、開催されてます。私のように少数派ですが、海外からの参加者もいて(今年は、アイルランド、スペインの方も)、世界中にいるアイカルディの家族たちで絆を深めています。たまたま私の参加回(7年前と今年)は、東海岸、西海岸の人いずれも集まりやすいのではないか、とコロラド州が選ばれた年に参加したので、2回ともコロラドへ行っています。
コロラドがですね、日本でいうと、場所的にも気候的にも長野のようなイメージなんですけども、高山(・・・!)でして、酸素が必要な子たちなのに、なぜ酸素の薄い場所で・・・!と、毎回ざわつきます(笑)。
毎回、とても前向きな気持ちになるスローガンが委員会によって選定されています。
全て素敵な英語で、スローガンを見ているだけで癒されます。
There is Joy in the Journey
この道は大変だけど、喜びもあるからね
Don’t worry about the darkness for that is when the stars shine brightest.
真っ暗闇だからといって心配しないで。星は暗闇で一番輝くんだよ。
3日間にわたって多岐にわたるトピックがカバーされます。
特に米国らしいのは、ユーモア、グリーフ、セルフディレクト、あたりでしょうか。
研究者との距離の近さ、てんかん検知デバイス、セラピードッグ、VNSあたりも、特徴的かなと思います。(ひとつひとつゆっくり知りたい方お知らせください。)
開催日が待ち遠しくなるようなカウントダウンがFBグループで毎日投稿されて、ボルテージが高まります。
アイカルディは女の子の疾患なので、お集まりをするときに、プリンセステーマになることが多いのですよね。
今回は、「ドレスとシューズ(英語ではslippersと言います)は、スーツケースに入れた?プリンセスパーティがあるから持ってきてね!」という連絡がグループに流され、日本にいたゆりちゃんと私はパーティってどんな格好をすればいいんだろう?とちょっとドキドキとわくわく。
親もドレスでしょうか、と質問が相次ぎました(同じ質問が頭の中にあった私でした笑)。当日は、ティアラが配られ、華やかな忘れられない夜になりました。
会場にはアナとエルサも来てくれたので、ディズニーワールドに行ったようなお得な気分になりましたね。
私はひそかに、こんなダンスパーティを特別支援学校でできたらいいな、企画持ち込もうかな…と妄想しています。
知識面も助け合っていますが、同じ疾患の人の存在に、精神的に助けられています。
今回も、気持ちを吐き出す、ねぎらい合う、笑って泣いて大忙しのカンファレンスでした。
100家族に対して各家族、3泊ずつ宿泊代が患者家族会から提供されました。
私からは、日本のアイカルディ症候群患者家族会「姫君会」のJunkoさんがデザインしたリボンマグネットとその関連商品を販売させていただきまして、ファンドレイズに協力してきました。
移動制限のある生活が終わった今、障害児家族も遠方へ足を伸ばしたい気持ちは高まっています。
旅行をすると、電源確保や衛生管理を限られた環境の中でできるようになり、災害時でもケアできる自信が生まれると思います(移動、旅行は災害対策に直結していると思います)。
医療機器がありながらも、日々のお出かけ、近距離から始めて、中・長距離の移動に挑戦していくことは、本人にとってもケアをする家族にとってもメリットがたくさんあると思います。
(なんで登壇したのか、改めて考える)
希少難病児の母になることが明確になった時、こう思いました。
もう2度と海外旅行することは、ないんだろうな。1年前、気管切開を決断する時にも思いました。遂に再び飛行機に乗れる日は来ないのだろう。
そう思っていましたがそんなことありませんでした。何度も飛行機に乗れているのです、娘と。
ゆりちゃんは、きっと、座位がとれるタイプの子で、体調がおちついているんじゃない?と思う人がいるかもしれません。
たしかに気管切開を作った今こそ、日常的に努力呼吸様になる、といったことは減っているものの、実際は、いまだに難治性てんかんの発作のコントロールに難渋していて、いまだに、ちょっとしたきっかけでポンと高熱をだしては、往診の先生を呼んでいる子です。
ユナシン投薬開始、あるいはロセフィン点滴しましょう、となることしょっちゅうで、お薬が切れると再び怪しい発熱が・・・!というような子なのです。
なので、旅行の計画がポシャってしまう可能性というのが常にあるのです。しかし、生後8ヶ月時にコロラド州、2歳で宮古島へ、4歳でハワイに行っていて、昨年7歳の夏には、沖縄本島とコロラド州へ行くことができました。
ケアの内容も移り変わってきましたが、果敢に旅行しているほうだと言えると思います。
旅行を検討している・旅行したい気持ちがある旨を打ち明けてきた患者家族に対して、短い診療時間の中でどれだけのサポートができているでしょうか。
“海外行った人、知っているよー、沖縄に行った子がいるよー、飛行機乗れるらしいよー”、そんな言葉を伝えている先生が多いと思います。
ゆりちゃんちの話もそのように伝わるのかもしれません。それは他のご家族にとって、十分に希望であることに間違いないのですが、より強力に患者家族を支援するためには、もっと的確に詳細に旅行をイメージし、あれができているか、これはできているか、全体像を一緒にとらえ、サポートすることが大切であると思っています。
- 到着先のレンタカーに福祉車両はありそう?
- 現地酸素会社から宿泊先に酸素を手配する方法もあるかも?
- 飛行機内での姿勢はどうする?
- 嚥下食だけど、持ち歩きやすいミキサーはどれだろう?
- ケトン食をクール便で現地に発送しちゃうとかどうかな?
- 飛行機で耳抜きの方法は?
- 旅行先の気候は?
- 翻訳アプリのおすすめは?
- キャッシュレス決済のアプリで使いやすいものはどれかな?
日常の医療的ケアに追われている合間にあらゆることを検索かけて、遠出の旅行を計画し遂行したいただの家族です。
ではでは。